小学生の頃、新聞を広げるとそれほど大きくないスペースで小説が書かれていた。当時は、活字にも慣れておらず、小説を読んだりすることも少なかったので、一瞥するに過ぎなかった。それを、ふとした時に「一度読んでみよう」そう思って、活字に向かった経験を読者の方は無いだろうか? 僕はその類であるが、もちろん新聞に掲載されている小説は、連載小説なので毎日読まないとその内容はまったく分からない。子供心に、読んでは見たものの、すぐに飽きてポイと新聞を捨ててしまう。そんな、少年時代の記憶が甦る。
そんな昔の記憶に残る小説のイメージ、それがまさに宮本輝という作家の小説である。大学生の頃、初めて彼の作品を読んでから今まで、その洗練された文章力による綺麗な小説というイメージを持つ作家を他にはまだ知らない。小説という名の小説。そんな言葉がふさわしいと思えるほど、彼の表現力や観察力における描写力、言葉への変換能力は長けている。
宮本輝は近年、文壇をリードし代表する作家でもある。初期の作品には大阪を舞台としたものが多く、作中には知った地域や建物も登場し親しみやすい作品も多い。
代表作には『泥の河』『螢川』『道頓堀川』の川三部作をはじめ、『錦繍』『幻の光』『流転の海』などが挙げられるだろう。『泥の川』で太宰治賞を受賞後デビューし、翌年には『螢川』で芥川賞を受賞している。作家としてのこれからを約束されたかのような順風満帆なスタートであった。そして、それらに甘んじることなく数十年経った今でも精力的に作家活動を続けている。
僕もこれらの作品はかなり以前であるが読んだ記憶が残る。特に、印象的なのは『道頓堀川』で これを読んだ後は、汚い大阪の街も何故か愛着心の湧く親しみのある町へと変貌を遂げるたのだ。小説の持つ想像力の力。イメージの変換力。それは優秀な作品とそれを生み出す作家の力だろう。
小説家になりたいと思っていた僕は、彼の作品を読んで、そのレベルの高さに諦観の念を感ぜずにはいられなかった。
前述の川三部作はいずれも初期のものである。最近の作品を、僕は手に取る機会がないのだが、いずれは彼の作品の多くを読んでみようという思いもある。そんな宮本輝に要望があるとすれば、練達な作家となった今、もう一度、川作品を書いてはくれないだろうか。もちろん、舞台は大阪だ。それらが後年、川四部作。そう呼ばれる秀逸な作品を期待したいものである。
「おばちゃんのできることは何でもしてあげるちゃ。商売が何ね、お金が何ね。そんなもんが何ね。みんなあんたにあげてもええちゃ……」(蛍川より)
宮本輝公式サイト
http://www.terumiyamoto.com/
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| ■ 作家談義15「宮本輝」 |
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